「なんで今?」と、空気が凍る瞬間
お子さまと一緒に買い物をしている時や、ご友人と会っている時。 お子さまの「あの人、どうしてあんな格好をしているの?」 「早くおうちに帰って遊びたいな」 そんな一言に、ヒヤッとした経験はありませんか?
お子さま本人には全く悪気がないのは痛いほど分かる。でも、その場の空気が凍りつき、周りにひたすら謝ることしかできず、気まずい思いをしてしまう…。 そして帰り道、「あんなことを言うのは良くないんだよ」と伝えたいけれど、純粋な気持ちをどう諭せばいいのだろう、と頭を悩ませてしまう。
これは、多くの方が経験する、子育ての悩ましい場面の一つです。
悪気はないのに、なぜ?~お子さまの世界の見え方~
まず大切なのは、「なぜ、うちの子はこんなことを言うのだろう?」とお子さまの心を理解することです。
例えば、ご友人と遊んでいる最中の「早く帰りたいな」という一言。それは、「あなたと遊ぶのがつまらない」というネガティブな意味ではなく、「少し疲れちゃったな。安心できるおうちで、あのおもちゃで遊びたいな」という、自分自身の気持ちや欲求を、素直に表現しているだけなのかもしれません。
多くの場合、これらの言葉は、誰かを傷つけようという意図からではなく、頭に浮かんだ考えや気持ちを、そのまま素直に口にしているだけなのです。 ただ、その素直な言葉が、意図せず相手を傷つけたり、誤解されたりすることがある。その社会のルールを、お子さまは今まさに学んでいる最中なのです。
このデリケートなニュアンスをお子さまに伝える時に、『あたま言葉』と『くち言葉』という合言葉を使うことをご提案しています。
『あたま言葉』とは? 何かを見たり聞いたりした時に、頭の中にポン!と自然に浮かんでくる“心のつぶやき”のことです。( 認知行動療法(CBT)でいうところの「自動思考(Automatic Thought)」です。)「あの人の服、派手だな」「このご飯、苦手なものが入ってるな」など、自分ではコントロールできない、正直な感想や気持ちです。これは、誰にも止められない、あなただけの大切な気持ちです。
『くち言葉』とは? 『あたま言葉』の中から、相手に伝えたいことを「選んで」口から出す言葉のことです。 私たちは、頭に浮かんだことの全てを話しているわけではありません。無意識のうちに、「これは言ってもいいな」「これは言わないでおこう」と、言葉を選んでコミュニケーションをとっています。
この二つの違いを理解することが、思いやりの第一歩になります。
では、具体的にお子さまにどう伝えていけば良いのでしょうか。ポイントは、頭に浮かんだ気持ち(あたま言葉)を否定しないことです。
まずは「あたま言葉」を肯定する
「『早くおうちで遊びたいな』って思ったんだね。そっかそっか、おうちのあのオモチャ、楽しいもんね」 まずは、お子さまの心に浮かんだ正直な気持ち(あたま言葉)を、そのまま受け止めてあげましょう。「そんなこと思っちゃダメ」と否定する必要はありません。
次に「もし相手が聞いたら?」を一緒に考える
「その『早く帰りたいな』っていう言葉を、もし〇〇ちゃん(一緒にいた友人)が聞いたら、どんな気持ちになるかな?」 少しずつ、相手の視点に立って考える練習を促します。ここでは答えを急かさず、一緒に考えてあげることが大切です。
そして「くち言葉」を選ぶ練習をする
「『おうちに帰って遊びたい』っていう気持ちは大切に持ったまま、もしお友達に何か言うとしたら、どんな『くち言葉』なら、優しい気持ちが伝わるかな?」 「『今日は一緒に遊べて楽しかったよ、またね!』って言えたら、素敵だね」というように、具体的な言葉の例を教えてあげるのも良いでしょう。
この練習は、お子さまの発言を縛り付け、言いたいことが何も言えなくさせてしまうためのものではありません。 「正直な気持ち(あたま言葉)は、あなたの大切な宝物。その上で、相手も自分も気持ちよくなる『くち言葉』を選べると、もっと素敵だね」という、ポジティブなメッセージとして伝えていくことが大切です。 まずは、親子で、できる範囲で少しずつ意識することから始めてみてください。
お子さまにその場に適した言葉遣いを教えるのは、とても根気が必要な、繊細な作業です。もし、お子さまへの伝え方に悩んだり、保護者さま自身がこれらの場面で深く傷ついてしまったりした時は、一人で抱え込まず、当相談室にご相談ください。お話をお伺いする中で、解決の糸口を一緒に見つけるお手伝いができたら、と願っています。
当相談室「オンラインカウンセリング こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
言葉の育ち、集団生活でのお悩み、育児の中で感じるさまざまな想いを、どうぞお気軽にお話しください。