突然、火がついたように泣き叫び、何を言っても聞かなくなる「癇癪(かんしゃく)」。 「いつもの道じゃないと歩かない」「この手順でないと気が済まない」といった、譲れない「こだわり」。
昨日まではうまくいっていた関わり方さえ、すべてを拒否されてしまうこともあり、「イヤイヤ期だから仕方ない」と頭では分かっていても、毎日続くと保護者の方も心と体が疲れてしまいますよね。「どうしたら良いのだろう…」と、一人で不安を抱えていませんか?
実は、その癇癪やこだわりは、お子さまの心が豊かに成長している大切な証です。そして同時に、言葉にならない「心の声」のサインでもあります。
一見、どうしてあげたら良いか分からなくなるような行動。それは、お子さま自身が自分なりの「これで大丈夫」を見つけようと、一生懸命になっている姿なのかもしれません。
ことばにできない「もどかしさ」 自分の意志(自我)が芽生え始めると、お子さまは「こうしたい!」を明確に感じ始めます。しかし、それをうまく言葉で伝える力はまだ発達の途中。この「やりたい気持ち」と「伝えられないもどかしさ」のギャップが、癇癪につながることがあります。
見通しが立たないことによる「不安」 次に何が起こるか分からない状況は、大人にとっても不安なもの。経験の少ないお子さまにとってはなおさらです。「いつもと同じ」を繰り返すことで、「この次はこうなる」と見通しを立て、心を落ち着かせています。保護者の方を困らせているように見える強いこだわりは、お子さまが自分自身を不安から守るための、大切な「お守り」のような役割を果たしているのかもしれません。
「自分でやってみたい!」気持ちの芽生え お子さまが成長し、自分でできることや、やりたいことが増えてくると、大人が良かれと思って手伝ってしまうことも。しかし、お子さまにとっては「自分でできた!」という大切な体験の機会を奪われたように感じ、それが不満となって現れることもあります。
これらの行動は、決して保護者を困らせようとしているわけではなく、お子さまが自分自身の心と、周りの世界との折り合いをつけようと奮闘している、健やかな成長の過程なのです。
お子さまの成長は喜ばしい反面、日々の慌ただしさの中で、その一つひとつに気長に付き合っていくのは大変なこと。「成長を応援しながら、親子で穏やかに過ごせる時間を少しでも増やしたい」、そう願うのは、とても自然なことです。 ご家庭ですぐに実践できる、関わり方のヒントをいくつかご紹介します。
1.気持ちを「言葉」で代弁する
癇癪が起きた時、まずはお子さまの気持ちを汲んで、言葉にしてあげましょう。その際に、今起きている状況も添えて伝えてあげると、より気持ちが伝わりやすくなります。 「そっか、もっと公園で遊びたかったんだね。お砂場で遊ぶの、楽しかったもんね」 たとえこの声かけで癇癪がすぐに収まらなくても、大丈夫。「ダメ」と否定されるのではなく、「そうか」と気持ちを受け止めてもらえた経験は、お子さまの自己肯定感を育む大切な土台となります。
2.「自分でえらぶ」経験で、自信を育てる
「自分でやりたい!」という気持ちを、癇癪ではなく「できた!」という自信につなげるために、小さな選択肢を用意してみましょう。 「どの服が良いの?」と漠然と聞くのではなく、「赤いのと青いの、どっちにする?」と候補を絞ってあげると、お子さまも選びやすくなります。もどかしさが癇癪になる前に、自分で決断できた経験を積むことで、気持ちを切り替える練習になります。
3.「予告」でつくる、心の準備
こだわりが強かったり、気持ちの切り替えが苦手だったりするお子さまは、次にする事の見通しが立つと、安心して行動に移りやすい傾向があります。 楽しい遊びの最中に突然「お買い物に行くよ」と中断されるよりも、「この時計の長い針が『6』になったら、お買い物に行こうね」と事前に伝えてあげる。それだけで、心の準備ができて驚くほどスムーズになることもあります。言葉だけではイメージしにくいお子さまには、写真や絵カードで流れを見せてあげるのも有効です。
4.安心できる「安全基地」を用意する
色々な工夫をしても、感情が爆発してしまうことはあります。そんな時のために、静かで落ち着ける「安全基地」を整えておくのも良い方法です。キッズテントやソファの定位置、お部屋の隅のクッションコーナーなど、刺激の少ない場所を確保してあげてください。 保護者の方も気持ちが揺さぶられてつらい場面ですが、叱るのではなく「あっちで少し休もうか」とクールダウンを促してあげましょう。癇癪を起こしても、安全な場所で落ち着けるという経験は、お子さま自身がこれから感情をコントロールする術を身につけていくための、大切な第一歩になります。
癇癪・こだわりが起きてしまった際の対応をいくつかご紹介しましたが、うまくいかない日があって当然です。長い目で見守り、保護者の方自身を責めることなく、完璧を目指さず、10回に1回できたら素晴らしい、くらいの気持ちで試してみてくださいね。
保護者の皆様は、お子さまがより良い環境で過ごせるようにと、日々懸命に考えていらっしゃることと思います。今回ご紹介した対策を試しても、「やっぱりうまくいかない」「保護者の方が疲れてしまって、笑顔でいられない」と感じた時は、どうか一人で抱え込まないでください。
誰かと一緒に考えることで、解決の糸口が見つかることもあります。当相談室では、お子さまの発達と日々の生活、あなた自身のお悩みに親身に寄り添います。まずはお気軽にご相談ください。
当相談室「オンライン心理相談 こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
言葉の育ち、集団生活でのお悩み、育児の中で感じるさまざまな想いを、どうぞお気軽にお話しください。