公園の滑り台、イベントでの乗り物など、楽しい場所での順番待ち。 「ここで一緒に待とうね」と約束したのに、お子さまが列を抜かして前に割り込んでしまい、ヒヤッとした経験はありませんか。
「順番だよ」「みんな並んでるよ」と繰り返し伝えても、なかなか伝わらない。周りの目が気になって、つらい気持ちになることもありますよね。「どうしてこの子は…」と、その伝え方に頭を悩ませてしまう保護者の方も少なくありません。
不思議なことに、お子さま本人には悪気がある様子は少しもなく、むしろ「早く遊びたい!」という純粋な気持ちでいっぱいに見えませんか? それこそが、「順番を守れない」理由を解き明かす大切なヒントなのです。
まず大前提として、特に幼児期のお子さまにとって「順番を守る」という行動は、私たちが思う以上に、いくつもの能力を組み合わせた高度なスキルです。 「順番を守れない」のは、わがままなのではなく、そのスキルを今まさに一生懸命学んでいる最中だから、と考えてみてください。
1.「やりたい!」気持ちを止められない(脳の発達)
気持ちをコントロールする脳(前頭前野)は、まだ発達の途中です。目の前に魅力的な遊具があれば、「遊びたい!」という気持ちが衝動的に行動に繋がりやすいのは、この時期の自然な姿なのです。
2.相手の気持ちを想像するのが難しい(心の発達)
幼児期は、まだ他者の視点に立って物事を考えるのが苦手です(ピアジェの発達段階説)。「自分は待つのが嫌だけど、あの子も同じように待っているんだ」と想像するのは、とても難しいこと。悪気なく割り込んでしまうのは、相手を軽んじているのではなく、世界の見え方が私たち大人とは少し違うだけなのです。
3.「あとで」が分からない(時間感覚の発達)
幼児期のお子さまは、「今、ここ」にある強い欲求の世界に生きています。「少し待てば(未来)、あれで遊べる」という未来の概念を理解するのは、まだ簡単ではありません。
お子さまの発達のペースを理解した上で、ご家庭や公園で試せる具体的な対策を3つのステップでご紹介します。
ステップ1:おうちでできる「順番」の練習(予防策)
問題が起きる前に、「順番」の概念そのものに楽しく触れておきましょう。
遊びの中で練習する 「ママと順番に、一つずつ積んでいこう」と積み木で遊んだり、「ママの番、次はあなたの番だよ」とカードゲームをしたり。ターンが短く、すぐに自分の番が回ってくる遊びは、お子さまも飽きずに「順番」を体感できます。
ルールの「見える化」 実際に順番を待つ場面では、言葉だけでなく、目に見える形でルールを示してあげましょう。「前の青い服の子が進んだら、一緒に進もうね」と具体的な目標を教えたり、「この線の上で待とうね」と物理的な待機場所を決めたりするのも有効です。
ステップ2:「待つ時間」を「楽しい時間」に変える工夫
ルールが分かっていても、待つのは退屈なもの。そんな時は、待ち時間を少しでも楽しいものに変える工夫が大切です。 「あと二人で乗れるね!ドキドキするね!」と期待感を煽ったり、「ママと今日の夕飯、何が良いかお話ししながら待とうか」と全く別の話題で気を紛らわせたり。ちょっとした声かけや手遊びで、お子さまは驚くほど落ち着いて待てることもあります。
ステップ3:割り込んでしまった時の「伝え方」のコツ
どんなに工夫しても、お子さまが待ちきれずに割り込んでしまうことはあります。そんな時こそ、感情的にならず、冷静にルールを教えるチャンスです。 思わず感情的になってしまうこともあるかもしれません。それは、保護者として一生懸命な証拠です。もし少し心に余裕があれば、以下のポイントを試してみてください。
まず、行動を止める お子さまの肩を優しく掴むなどして、物理的に行動を止め、「ストップ」と伝えます。
気持ちに共感し、行動を教える 「早くやりたかったんだね」と、まずはお子さまの気持ちを言葉にして受け止めます。その上で、「でも、まだ前にいるお友達の番だね。ここの線で一緒に待とう」と、今すべき具体的な行動を伝えます。
できた瞬間を、逃さず褒める! 列に戻って少しでも待てたら、その瞬間に「ちゃんと順番守れてすごいね!」と具体的に褒めてあげてください。達成できた喜びが、「次もやってみよう」という原動力に繋がります。
お子さんの得意なこと、苦手なことが見えてきたら、具体的な関わり方を試してみましょう。
1. 『得意』を伸ばし、自信の土台を作る
苦手なことばかりに目が向きがちですが、お子さんが夢中になる『得意』なことを見つけ、一緒に楽しんであげてください。「あなたが作った〇〇はとても素敵だね!」と褒められた経験は、自己肯定感という、最も大切な心の土台を育みます。
2. 『苦手』はスモールステップで、課題を『見える化』する
苦手なことへの挑戦は、小さな段階に分けましょう。例えば、お片付けが苦手なら「まず、黄色のブロックだけ箱に入れてね」と具体的に伝えます。また、絵や写真で示す『見える化』は、言葉の指示だけでは動きにくいお子さんにとって、先の見通しが立ち、不安を和らげることになります。
3. 『できたこと』を具体的に褒める
ただ「すごい!」だけでなく、「〇〇ができたんだね!ママ(パパ)嬉しいな」と、具体的にできたことを言葉にしてあげましょう。自分が何を認められたのかが分かり、次の意欲につながります。
これらの対策を通して、お子さまが「順番を守って遊べた!」という楽しい成功体験を積めることを、心より願っています。ルールを守れる機会が増えることで、お友達とのトラブルが減り、保護者の方も安心して公園などへお出かけできるようになれば、こんなに嬉しいことはありません。
そうはいっても、これらの対応には根気が必要で、心労が重なることもあると思います。もし、お子さまとの関わりでつらさが続いたり、どうしてもうまくいかないと感じたりした時は、お子さまのタイプに合わせた別のアプローチが有効な場合もあります。
誰かと話しながら考えることで、解決の糸口が見つかることもあります。その際は、一人で抱え込まず、いつでも当相談室のドアをノックしてください。
当相談室「オンライン心理相談 こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
言葉の育ち、集団生活でのお悩み、育児の中で感じるさまざまな想いを、どうぞお気軽にお話しください。