自治体から乳幼児健診のお知らせが届くと、「どんなことを聞かれるのかな」「うちの子、ちゃんとできるかな」と、少し緊張した気持ちでその日を迎える保護者の方も少なくないのではないでしょうか。
コロナ禍以降は、保健センターでの集団健診だけでなく、かかりつけの小児科などで個別に行われることも増えましたね。
場所がどこであれ、慣れない環境でお子さまの様子を見てもらうのは、親子にとって少し特別な時間です。そんな中で、保健師さんや先生からかけられた「少し言葉がゆっくりめだね」「指差し、しないかな?」という何気ない一言。その言葉が深く胸に刺さり、大きな不安に包まれてしまう…。 あるいは、「家ではできているのに、どうして…」と、やるせない気持ちを抱えて帰路についた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、そんな健診での指摘をきっかけに、不安な気持ちを抱えているあなたのために、このコラムを書きました。
まず、思い出してみてください。保健センターや小児科は、お子さまたちにとってどんな場所でしょうか。 初めて訪れる場所だったり、あるいは、予防接種や体調が悪い時に行く「ちょっとこわい場所」だったりすることが多いかもしれません。
そんな『普段とは違う環境』で、知らない大人にあれこれ質問されたら…。 これは、私たち大人でも同じではないでしょうか。慣れない場所で初対面の人に「さあ、やってみてください」と言われたら、緊張や萎縮から、普段ならできることも、うまくできなくなってしまうことがありますよね。
お子さまたちは、大人以上にその場の雰囲気や環境に敏感です。健診の場で、緊張して固まってしまったり、問いかけに反応しなかったりするのは、決して珍しいことではないのです。 健診の終わり際、緊張が解けた瞬間に、急に「わんわん、いた!」とお話ししてくれたり、目を合わせて「バイバイ」と手を振ってくれたりする。そんな「あるある」エピソードは、お子さまが健診の場で、いかに一生懸命がんばっていたのかを物語っています。
もちろん、保健師さんや先生方は、お子さまが緊張していることを百も承知で、その上で様子を見てくださっています。 それでも、「経過観察」や「発達がゆっくりめかも」といった言葉が出てくるのは、決してあなたの子育てを否定したり、お子さまにレッテルを貼ったりするためではありません。
それは、「万が一、支援が必要なお子さまがいた場合に、大切なサポートの機会を逃さないように」という、専門家としての重要な視点からくるものなのです。
また、もし健診で「後日、保健センターで様子を見ましょう」といった「経過観察」の提案をされたとしても、その場で過度に不安になる必要はありません。
「経過観察」という言葉は、どこか宙ぶらりんで、不安な気持ちをかき立てるかもしれません。 しかし、その言葉の裏には、「今日のこの1回の、テストのような場面だけでは、あなたのお子さんの素敵なところを全部見られなかったかもしれない。だから、もっと普段に近い、リラックスできる環境で、改めてあなたのお子さんの様子を、一緒に見守らせてくださいね」という、専門家からの温かいメッセージが隠れているのです。
「経過観察」は、決して悪いことばかりではありません。むしろ、健診という短い時間での判断ではなく、お子さまの日常的な様子を大切にした上で、その子にとって本当に必要なサポートは何かを、保護者と一緒に考えていくための、大切な第一歩なのです。
頭ではそう理解しようとしても、一度抱えてしまった不安や心配は、簡単には消えないものですよね。健診での一言が、ずっと心に引っかかり続けてしまうこともあるかもしれません。
今回のコラムで、健診後の不安が少しでも軽くなっていれば幸いです。 ただ、保護者の方の本当の願いは、「では、うちの子には具体的にどうすれば?」という点にあるかと思います。
一般論だけでなくそれぞれのお子さまに応じたより適切な対応を考える場合、やはり、お一人おひとりの個性やご家庭の状況について、個別・具体的にお話を伺うことが必要不可欠です。
当相談室では、保護者の方とお子さまの状況を丁寧にお伺いした上で、「次の一歩」を一緒に築いていきたいと思っています。一人で抱え込まず、まずはお気持ちをお聞かせください。
当相談室「オンライン心理相談 こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
言葉の育ち、集団生活でのお悩み、育児の中で感じるさまざまな想いを、どうぞお気軽にお話しください。