~「苦手」を乗りこなす、私らしい子育ての見つけ方~
ご自身がADHD(注意欠如・多動症)の特性と向き合っている保護者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
「不注意で集中力が続かない私が、子どもの安全をしっかり見守れるだろうか」
「次々と湧き出る家事と育児のタスクに、頭がパンクしそうになる」
「そんな自分が嫌になって、子どもに強く当たってしまうこともある…」
「子どもの予定や持ち物を管理しきれない」
子育てという、愛情と責任を伴う大仕事の中で、ご自身のADHDの特性が大きな壁のように感じられ、自己嫌悪に陥ってしまう。
そのお気持ち、とてもよく分かります。
ADHD(注意欠如・多動症)は、発達障害の一つであり、その特性は大きく「不注意」「多動性」「衝動性」の3つのタイプに分けられます。これらは、どれか一つだけが現れる方もいれば、複数が組み合わさって現れる方もいます。
不注意(Inattention)
ひとつのことに集中し続けるのが苦手で、気が散りやすい特性です。忘れ物や失くしものが多かったり、物事の段取りを立てるのが難しかったり、約束の時間に遅れやすかったりします。
多動性(Hyperactivity)
落ち着いてじっとしているのが苦手な特性です。会議中や食事中にそわそわと体を動かしたり、貧乏ゆすりをしたり、静かにすべき場面で動き回ってしまったりします。
衝動性(Impulsivity)
思いついたことを、深く考えずにすぐに行動に移してしまう特性です。相手の話が終わる前に話し始めたり、衝動的に高価な買い物をしてしまったり、順番を待つのが苦手だったりします。
これらの特性は、決して「本人のやる気がない」とか「性格がだらしない」といった問題ではなく、生まれ持った脳の機能的な特性によるものです。その「苦手さ」を、環境の工夫や周りの理解によって乗りこなしていくことが大切になります。
ADHDの主な特性には、上記のような3つの特性があることをお話ししました。
一方で、特に乳幼児期の子育ては、片時も子どもから目が離せない安全管理に加え、「離乳食作り」「食べこぼしの片付け」「汚れた服の洗濯」「食器洗い」…といった無数のタスクが、同時多発的に発生します。入園・就学後もお子さまの園や学校の持ち物準備などが始まるとより情報量が増えてきます。
これは、ADHDの特性がない人にとっても、パンクしそうになるほどの重労働です。ADHDの特性を持つ方にとっては、この「常に頭を使い、タスクを組み立て続ける」状況が、極度の精神的・体力的疲労に繋がりやすいのは、当然のことなのです。
日々の生活で家事・育児・仕事などで心身ともに疲弊してしまった時に「家事代行サービスを頼む」「お惣菜を買う」といった外注(アウトソーシング)は、非常に有効な選択肢です。しかし、ご家庭の予算や、ご家族の理解など、様々な理由で、誰もが気軽に使えるわけではないのも、また現実です。
そこで今回は、ご家庭の中で、少しでも「頭と心の負担」を軽くするための具体的な工夫をご提案します。
頑張らないための作戦①:「考える」を減らす、献立のルーティン化
疲れ果てて、「もう何も考えたくない…」という日はありませんか。そんな日は、無理に頭を使わなくて良い「仕組み」を、あらかじめ作っておきましょう。
例えば、曜日ごとに献立のテーマを決めてしまうのはどうでしょうか。 「月曜はカレー、火曜は麺類、水曜は魚…」のように、大枠だけでも決めておけば、「今日のご飯、何にしよう?」と考える認知的な負担(認知負荷)を、劇的に減らすことができます。ソースや味付けのバリエーションもいくつか決めておけば、罪悪感なく「今日の流れ作業」として取り組めます。
頑張らないための作戦②:「これさえやればOK」な最低限リストを作る
心と体のキャパシティがいっぱいになってしまった時、たくさんのタスクを前にすると、どこから手をつけて良いか分からず、フリーズしてしまいます。 そうなる前に、「どんなに疲れていても、これさえやれば、今日の私は合格!」と思える、ご自身だけの「最低限のタスクリスト」を元気な時にあらかじめ作っておきましょう。
例えば、
子どもに3食食べさせる(レトルトでもOK)
お風呂に入れる
洗濯機を回す(干すのは明日でもOK)
この3つだけ、など。 思考が停止してから考えるのではなく、あらかじめいざという時の「お守り」としてこのリストを持っておくことで、「これだけやれば大丈夫」とご自身を許し、心の負担を軽くすることができます。
頑張らないための作戦③:子どもの持ち物カレンダーを作る
園や学校から頻繁にくるお子さまの持ち物やイベント情報の管理は膨大な量になります。「▲▲日までに、〇〇を▢▢に入れて持参」など、細かく指定されているものもあります。
そんな時は、スマホのリマインダーやスマートスピーカーを「外部の脳」として活用することをご提案します。忙しい毎日のタスクに埋もれてしまわないように、もしおご自身が忘れてしまっても問題が起こりにくい仕組みを作っておくのです。
もし、その方法だといくつもリマインダーが流れてきて把握しきれない!という方は、お子さまの持ち物専用カレンダーを作成するのも有効です。(ご自身のカレンダーと統合して確認先を一つにするのもOKです)
ご自身の予定と持ち物の予定がごちゃごちゃして見にくい場合は、「持ち物に関する予定はこの色!」と色分けで管理しても良いです。
カレンダーに入力することで、万が一園や学校から配布された資料が見つからなくても、「今週この持ち物の用意があるんだ!」とご自身の予定確認と併せて思い出す機会が増えます。何より、自然と持ち物の準備を思い出す機会が増える安心感が日々のストレスと緊張感を和らげることに繋がれば幸いです。
一番大切なこと:100点満点を目指さない勇気
日々、全力で頑張っているあなただからこそ、常に100点満点を目指してしまい、心が苦しくなってしまうのかもしれません。 でも、子育ても、家事も、毎日100点満点である必要は全くありません。
「今日は60点で十分!」と、ご自身で合格ラインを下げ、あえて完璧ではない日を作る。その「良い意味での諦め」が、長い子育てをより安定して、あなたらしく続けていくための最も有効な手段なのかもしれません。
おわりに
ご自身の「苦手」を理解し、あなたに合った工夫をすることで、あなたらしい素敵な子育てを築いていくことができるでしょう。 もし、その工夫を一人で見つけるのが難しいと感じたら、いつでも当相談室にご相談ください。一緒に、あなただけの作戦を考えていきましょう。
当相談室「オンラインカウンセリング こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
言葉の育ち、集団生活でのお悩み、育児の中で感じるさまざまな想いを、どうぞお気軽にお話しください。