掃除機の音を聞いただけで耳を塞いでパニックになったり、特定の服のタグが肌に触れるのをどうしても嫌がったり…。
周りから見れば「少し神経質なだけ」「我慢が足りない」と見えてしまうその行動に、「どうして、この子だけ…」と、悩んでいる保護者の方はいませんか。その苦しさは、決して「わがまま」や「気まぐれ」ではありません。
それは、その子の脳の仕組みの違いからくる、切実な「つらさ」のサインなのです。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性の一つに、「感覚過敏」があります。これは、脳が五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)から入ってくる情報をうまく調整できずに、過剰に受け取ってしまう状態です。例えるなら、他の人には普通の音量の「テレビの音」が、その子には「工事現場の騒音」のように聞こえているのかもしれません。普通の光が、突き刺すように眩しいのかもしれません。
決して大げさな話ではなく、その子にとっては、時に世界が刺激に満ちた、とても過酷な場所に感じられています。まずは、その「つらさ」そのものに寄り添ってあげることが、理解の第一歩です。
そのつらさをゼロにすることは難しくても、刺激を和らげ、少しでも過ごしやすい環境を整えることはできます。
1.事前の「予告」で心の準備を
苦手な刺激が、心構えなく急に始まると、大人でも対処が難しいものです。「あと〇分で、掃除機をかけるね」「この後に乗る電車は、いつものより音が少し大きいかもね」といったように、事前に「予告」してあげるだけで、心の準備ができ、パニックを大きく減らすことができます。
2.自分で刺激をコントロールできる「お守り」を見つける
大きな音が苦手なお子さんには、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを。光が眩しいお子さんには、サングラスや帽子を。「自分で自分の身を守れる道具(お守り)がある」という事実は、大きな自信と安心につながります。
感覚過敏への対応で最も大切なのは、「我慢させて慣れさせる」ことではありません。その子の「苦手」を無理強いせず、刺激の少ない安心できる環境を整えてあげることです。それは、心の安定した成長のために不可欠であり、決して「逃げ」や「甘やかし」ではないのです。
当相談室「オンライン心理相談 こころのもり」は、お子さまの発達と、それを支える保護者の方、両方のための相談室です。
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